そのときの写真です。
秋山さんからお手紙をいただきました。 ありがとうございました。 拝啓 初夏の侯、お変わりなくお過ごしのことと思います。 この度、第一美術展に「会津戦争の帰結」を出品しましたが、風景画の多い 会場では唯一の歴史画で特異な存在でした。そのポストカードをお送り致します。 私が所属している岩手歴研の有志が、二〇一二年九月十七日に岩手県で 安倍貞任没後九五〇年祭を行い、その時安倍元首相の講演をしたりして、安倍 氏と源氏の和解等を図ることを計画しております。 私としては合わせて会津戦争の和解も触れて欲しいものと思っております。 以上の近況報告とご健康をお祈りして失礼致します。 敬具 二〇一〇年六月一日 秋山 隆 |
最近、陸軍と海軍の違いがテレビで論じられた。
NHKスペシャル『日本海軍 400時間の証言』である。その後、PHP研究所から『〔証言録〕海軍反省会』として出版された。
集まったのは、旧海軍の佐官クラスの参謀たちだった。少佐、中佐で当時の年齢は四十代が多かった。全員、海軍兵学校、海軍大学校出身のエリートだった。
「やっちゃえ、やっちゃえ」
という乱暴な発言で、作戦が発動されたこともあったと語った。
陸軍に関する話も出た。陸軍は下剋上が多い。とにかくひどいと旧海軍の参謀たちは陸軍の参謀を酷評した。
それは、どういう意味なのか。
海軍は軍艦に乗せられて、艦長が「右、左」と言えば、それに従っていくしかない。独断専行が可能なのは艦長だけということだった。
関東軍参謀・辻政信もその一人である。
辻がハルハ河の河畔に現れたときから、ノモンハン事件の拡大と隠蔽が始まった。
広大なこの草原が戦場の地だった。
私がノモンハンの草原に立って、この戦争を考えたのは平成十五年(二〇〇三)の夏だった。
実に広い草原であった。
中国の東北地方、旧満州の西北、興安嶺を超えると、茫漠たるホロンバイルの大草原が外モンゴルのモンゴル人民共和国に続いている。
そこを南北に流れるハルハ河の手前が、ノモンハンであった。満州建国以来、同地方を事実上支配していた関東軍と、外モンゴルを勢力下に治めていたソ連軍は、この一帯で対立関係にあった。
国境線が不明確で、それが紛争の原因になった。
昭和十四年(一九三九)五月十一日、満州国の国境警察隊がソ連軍配下の外モンゴル軍から発砲を受けての小競り合いが続き、満州国軍が救援に出向く出来事があった。
五月下旬になると、ソ連軍と外モンゴル軍が大挙して越境を始め、満州国の領土を侵害したと見たハイラルの第二十三師団は一個連隊を急派したが苦戦に陥り、ついには七月下旬、第二十三師団とチチハル駐屯の第七師団を投入する大規模な戦争が勃発した。
これがノモンハン事件である。
結果、ソ連軍の優勢を思い知らされ、日本軍は大きなダメージを受けた。
私がノモンハンで出会った村の古老は、
「日本兵は五万人も死んだ」
と語った。
この身を隠す場所もない大草原で、日本軍とソ連、モンゴル人民共和国連合軍との死闘が行われた。
このとき紀行文を書いたが、いずれ本格的にノモンハン事件を書こうと思い続けてきた。それが今だと感じた。
日本軍はこの草原で特攻作戦を行っていた。
ソ連軍はノモンハンの戦場に戦車を大量投入した。装甲の薄い日本軍の戦車は、ソ連軍の戦車砲で吹き飛んだ。
草原には砲弾のモニュメント
ノモンハン事件で日本陸軍が考えたのは、兵士を武器として使うことだった。
日本陸海軍はその路線の延長で太平洋戦争を引き起こし、惨敗した。
資源のない日本が、世界の列強と戦うのは無謀なことだった。
これを止める人間はいなかったのか。
加えて最大の問題は、なぜノモンハンでこれだけの戦争を行う必要があったのか。ソ連側も首を傾げる戦争だった。
「日本は本気でソ連の領土を奪おうとしたのか」
「まさか、それはない」
「ならばなぜ戦争をしたのか」
そう言われると言葉に窮する戦争だった。
日本人とは何か、どこに欠陥があったのか。
かつて北海タイムズが取材し、連載した『ノモンハンの死闘』(三田真弘著、北海タイムス社)や防衛庁防衛研修所戦史室編の『戦史叢書 関東軍<1>対ソ連備・ノモンハン事件』(朝雲新聞社)、辻政信や従軍した将兵の数々の手記などを参考にしながら、改めてノモンハン事件を検証した。
題して『ノモンハン事件の真実』である。
星は、「山本五十六と山口多聞」など、戦記ものに関する数点の文庫をこれまで出しており、ノモンハン事件もその中の1つです。 ノモンハン事件は昭和14年(1939)、旧満州国北東とソ連の国境線沿いで行われた大戦争です。
日本兵が5万兵死んだと現地の人々は語っておりましたが、実際には1万数千の日本兵士の死傷者を出しました。 日本兵はサイダーびんにガソリンをつめたものが主力武器で、ソ連の戦車に肉弾攻撃をかけるという散々たる戦争でした。 その二年後に、日本兵は太平洋戦争に突入。壊滅的な敗戦を喫します。
資源のない日本が、世界の列強と戦うのは無謀なことでした。
それを止める人間はいなかったのか。
日本人とはなにか、どこに欠陥があったのか。
星は6年前にノモンハンに訪れ、それについて考え、まとめ、執筆したものが今回の作品です。
星は日の丸を掲げ、虚しくこの地に散った兵士たちの霊を慰める。